雲 尾崎喜八
雲がはるかに、群れ、浮いている、 空のとおい、青い地に、 かげをもつ白い家々や、尖塔が。
雲の変化はつねに短音階だ。 おもいだす今は亡い人の、 その折々の姿や顔を 忘れはしないが描けないと 同じように、遠く軟らかに、見る間に変る。
この世でのつながりを欲しいが、 つかむには鏡の奥の物のようで、 打明けの相手としては すでに天上的に半調色だ。
ウンブリアの夏のようなものが想われる。 むかし聖フランシスの「小さき花」に 挟んでおいた一輪のおだまきも、 ちょうどあのように枯れ、褪せた。