道づれ
尾崎喜八
君と僕とが向かいあっている此処から、
深い静かな夏の空の一角が見える。
おなじように深い静かなものが
この頃の互いの友情を支配しているのを僕らも知っている。
肩をならべて歩きながら、花を摘んでは渡すように、
たがいの思想を打明けあう。
それは未だいくらか熟すには早いが、
それだけ新しくて、いきいきして、
明日の試練には耐えそうだ。
君の思想が僕の心の谷間へながれ、
僕の発見が君の頭脳の峯を照らす。
君と僕とを全く他人だった昔に返して、
ここまで来た今日を考えるのはいい。
そして僕らが遂に沈黙する夕べが来たら、
肩をならべているだけで既に十分な夕べが来たら、
晩い燕の飛んでいる町中の
婆娑とした葉むらの下を並木の路に沿って行こう、
明日につづく道の上を遠く夜のほうへ曲って行こう。
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