郷愁 
                      尾崎喜八

  子供が一筆に、のびのびと、
  紙の上に塗った水絵具、
  柔らかい、くもった、その碧に
  私は何も描きそえまい。
  正午が熱して来れば光の充満、
  白皚々と照り積む雲、
  梅雨ばれの鷺もそこをよぎる
  夏のはじめの、
  竜胆いろの、
  これは空だ。
  私があとにして来た武蔵野の空だ。
  心よ、晴ればれとしているがいい!





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注) アオ/皚々 ガイガイ/鷺 サギ竜胆 リンドウ