銃猟家に与う
尾崎喜八
やがて雪になるシベリアを一緒に立って、
時化つづきの日本海をどうにか乗りこえ、
能登から越前、
それから幾日、
みすずかる信濃の山奥を二人そろって遊びくらし、
夜は夜でまんまるくした体をぴったりと押しつけあい、
黒鷽、赤鷽、ねすおす二羽の鷽が、
十月の或る日、
この武蔵野へはるばると渡って来たのだ。
秋晴十里の大平野をむこうに見ながら、
谷の浅瀬できらきらと水を浴び、
小枝のけむる果樹園をひょうひょうと飛まわり、
桜並木や藁家の上で朗らかな山の笛を吹きかわしながら、
里から里へだんだん移って来た夫婦の小鳥だったのだ。
ねらっている筒先があるとも知らず、
旅の者の悲しさには、無邪気さには、
好きな木の芽や粟の実を喜びあい、夢中になり、
飛び立つまもなく一発で打たれた……
木の葉と一緒に落ちて来た夫婦の鷽鳥、
鬼のような人間の手の平に死んでも二人並んだまま、
美しいビロードの胸をひくひくと、
息引きとった旅の鳥……、
そう思って鉄砲の台尻突いた君の顔を眺めるのだ。
一生を同じ夫婦で暮らすというこの鳥の
ほんのり赤い咽喉や、つやつや黒い頭や眼や、
薄墨いろの腹へ血のにじんだ柔らかな小さい二つの死骸を見て、
電車の中のこの子供たちが
君の角ばった大きな顔をまじまじと眺めるのだ。
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