私の詩 
                      尾崎喜八

  私はこれら自分の詩を
  素朴なたましいの人々に贈りたい。
  民衆の底にかくれた母岩、世界を支える若さと力、
  あの優しい心と勤勉な手とを持つ人々に贈りたい。

  また勝ちほこる勝利も知らず、
  威厳もなければ、喜びもない、
  毎日の悪戦をたたかう人々、
  しかも高貴な諦念をもって生き抜く人々、
  私は自分の詩をかかる人々に贈りたい。

  私は自分の詩によって
  彼らの楽しい伴侶でありたい。
  そして彼らと共に生き、彼らのうちに分解され、
  彼らの魂と共に未来にむかって遺贈されたい。

  なぜかといえば私は彼らの一人であり、
  その素朴な善と美とにあずかって生きてきた。
  そして生活の炉の中で燃えて神の灰となる
  同じ焚木の喜びと苦しみとに熱狂して来た。
  私は自分の詩を民衆の節くれた手に捧げたい。





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