音楽的な夜 
                      尾崎喜八

  日が暮れると高原は露がむすび、
  びっしょりと濡れたほのぐらい草の果てまで、
  りんりんと、きょうきょうと
  震え輝く虫の音に満たされる。

  夜空をかぎる山々の黒い影絵も
  光をかなでる楽器の列をおもわせる。
  「乙女」や「蝎」「射手」の星座が
  身をかがめ 弓を波うたせて弾き入っている。




 


「花咲ける孤独」目次へ / 尾崎喜八資料館トップページへ / 煦明塾トップページへ 
注)濡れた ヌレタ/震え フルエ/乙女 オトメ/蝎 サソリ/射手 イテ