音楽的な夜 尾崎喜八
日が暮れると高原は露がむすび、 びっしょりと濡れたほのぐらい草の果てまで、 りんりんと、きょうきょうと 震え輝く虫の音に満たされる。
夜空をかぎる山々の黒い影絵も 光をかなでる楽器の列をおもわせる。 「乙女」や「蝎」「射手」の星座が 身をかがめ 弓を波うたせて弾き入っている。