林間
尾崎喜八
秋を赤らんだ木々の奥から
ちいさい鐘か トライアングルの
軽打のように晴れやかに澄んだ
彼らの金属的な声が近づいて来る。
たとえば若い涼しい器用な手が
つれづれの手工に丸めて括った毛糸の球、
煙るような白やコバルトや硫黄いろを
つややかな黒でひきしめた小さい球----
柄長 四十雀 日雀のむれが
波をうって散りこんで来た。
木々が目ざめ、空間が俄かに立ち上がる。
彼らはもうあらゆる枝にいる。
ほそく掴み、丹念にしらべ、引き出して食いちぎり、
苛烈に 不敵に 美しく、
懸垂し、飛びうつり、八方に声を放ち、
この林の一角に更に一つの次元をつくる。
しかしやがて先達の鋭い合図の一声に
無数の小鳥は抛物線をえがいて飛び去った。
そして其のあとに口をあいた秋の明るい空虚から
再建された静寂の一層深い恍惚がある。
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