かけす 
                      尾崎喜八

  山国の空のあんな高いところを
  二羽三羽 五羽六羽と
  かけすの鳥のとんで行くのがじつに秋だ
  あんなに半ば透きとおり
  ときどきはちらちら光り
  空気の波をおもたくわけて
  もう二度と帰って来ない者のように
  かけすという仮の名も
  人間との地上の契りの夢だったと
  今はなつかしく 柔らかく
  おりおりはたぶん低く啼きながら
  ほのぼのと 暗み 明るみ
  見る見るうちに小さくなり
  深まる秋のあおくつめたい空の海に
  もうほとんど消えてゆく……


 


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注)六羽 ロッパ/半ば ナカバ/透き スキ/契り チギリ/啼き ナキ