復活祭 
                      尾崎喜八

  木々をすかして残雪に光る山々が見える。
  木はきよらかな白樺 みずき 山桜、
  まだ風のつめたい幼い春の空間に
  彼らの芽のつぶつぶが敬虔な涙のようだ。

  枯草の上を越年の山黄蝶がよろめいて飛ぶ。
  森の小鳥が巣の営みの乾いた地衣や苔をはこぶ。
  村里の子供が三人 竹籠をさげて、
  沢の砂地で青い芹を摘んでいる。

  萌えそめた蓬に足を投げ出し、
  赤や緑に染められた今日の卵をむきながら
  やわらかな微風の風を感じていると、
  覚めた心もついうっとりと酔うようだ。

  人生に覚めてなお春の光に身を浮かべ、
  酔いながら生滅の世界に瞳を凝らす。
  その賢さを学ぶのに遠くさすらった迷いの歳月!
  思えば私にとっても復活の、きょうは祭だ。


 


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注)敬虔 ケイケン越年 オツネン/山黄蝶 ヤマキチョウ/地衣 チイ
竹籠
タケカゴ セリ/摘んで ツンデ/萌え ハエ ヨモギ
生滅
ショウメツ/凝らす コラス歳月 トシツキ