冬のはじめ 
                      尾崎喜八

  黄ばんだものが黄いろくなり
  赤いものが紫にまで深まって
  日ごとに木の葉のからからと散りつづく秋の林に、
  私のしずかな仕事の昼と
  きつつきの孤独のいとなみとが
  世の中からいよいよ遠く
  いよいよひろびろと淳朴になる。

  大きなむなしさの中に明るく努めて、
  探求の重くちいさい鎚をひびかせ、
  つねに傾聴の心をひそめながら、
  他の地平線にはあこがれず、
  おおかたはこの西風と遠い南の太陽に、
  十月の木々のひろがりを生きている。


 


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注)木の葉 コノハ/淳朴 ジュンボク/鎚 ツチ/傾聴 ケイチョウ