尾崎喜八

  ながれるように飛んで来て、さながらの風、
  隼はふわりと
  高い松の枝に翼をおさめる。
  秀でた眉の下のかがやく両眼、
  好戦的な瞳のくばり、
  生革をも食い裂くような彎曲した嘴と、その深いきれこみ、
  柔毛に包まれた腿、脂肪いろに光る脚、巨大な鉤爪。
  片羽をもちあげをまげて腋の下を突つき、
  また脚を上げて喉を掻く。
  やがて彼の放つのは金属的なするどい叫び。
  三声、四声 ――
  たちまち蹴落とすいきおいで枝をはなれ、
  松葉をちらして悠然と虚空に舞い上がり、
  襲いかかるようにむこうの森へ立ってゆく。
  そこにも待っている幾羽の隼……
  私の田舎の丘陵つづきの森の上、
  湖のような秋の天空のいたるところ隼の飛揚!




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注) ハヤブサ秀でた ヒイデタ/彎曲 ワンキョク/嘴 クチバシ/柔毛 ニコゲ
モモ/鉤爪 カギヅメ/頸 クビ/腋 ワキ ノド/虚空 コクウ