女等 
                      尾崎喜八

  尻っぱしょりに結いつけ草履、
  姉さんかぶりや海水帽子、
  災厄にめげぬ明るいたましいと、
  その真剣さと、その親切さと。
  異常に美しいわが東京の女らよ、
  おんみらの灰ばみ褪せたおくれ毛を
  巨大な九月の太陽は金色に煙らせ、
  秋風は吹いてなつかしく梳る!
  ああ毎日の壮大な廃墟のなか、
  避難と救済との世界的な騒擾のただなかで、
  一切の無駄をかなぐり捨て、
  真の面貌にかがやき出るおんみらこそ美しい。
  かつて見もせぬ魂と姿との合体は、
  処女と母性との光を知らずしてふりまきながら、
  讃嘆と信頼とをわれらの心に湧かしめる。
  厄難から立ち現れた未知の花、
  新しい「永遠のアンチゴーネ」の群れよ!

       (大正十二年九月東京大震火災の記念として九月十日作)




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注)結い ユイ/草履 ゾウリ/災厄 サイヤク/褪せた アセタ金色 コンジキ梳る クシケズル
騒擾
ソウジョウ/面貌 メンボウ/湧かしめる ワカシメル/厄難 ヤクナン