音楽 
                      尾崎喜八

  バッハのガボット、
  それは魂の聖殿での神々しい歓喜の舞踏だ。
  この世ならぬ光を浴びている初春の丘の枝々、
  愛の空、愛の池、
  葉先をしたたる水煙に
  善の花びらの照りこぼれるような、
  人間世界へ遥かにとどく使信のような、
  また愛人の黎明の夢を垣間見るような……
  人の持ちながら
  あまり惜しんで用いる無我の慈しみとその喜悦と。




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注)黎明 レイメイ垣間 カイマ/慈しみ イツクシミ