冬の雅歌 尾崎喜八
日曜日のおだやかな朝をくつろいで、 書斎の電蓄でパレストリーナを聴いている。 「われは色黒けれどなお美わし」と 「わが上に彼のかざせし旗は愛なりき」、 フリブールの少年聖歌隊が清らかな声で ほとばしるようにけなげに歌うソロモンの雅歌だ。 私のためにそのような愛や誇りや、 かぐわしい風、せせらぐ小川はすでに遠いが、 老境の太陽はいま庭の枯れ木を柔らかに染めて、 冬の大空がその歌のようにはればれと青い。