AODO法 −細胞内構造を走査電顕で観察するための試料作製法−
満嶋 明
目次
【1】 概論 【2】 AODO法の準備 【3】 AODO法の手技 【4】 コツと理解 【5】 その他 文献
【1】概論 【目次に戻る】
1981年に田中・名黒によって Osmium-DMSO-Osmium 法(ODO法)(文献1)が開発された。これは細胞内構造を走査電顕で観察するための試料作製法である。オスミウム固定した細胞を凍結して割断し、観察に不要な構造物を希薄なオスミウム溶液で取り除く(この過程を「浸軟処理」と呼ぶ)という特徴を持っている。 AODO法(Aldehyde prefixed osmium-DMSO-osmium method)(文献2)は、オリジナルのODO法の変法であり、アルデヒド灌流固定を初期固定として採用し、より汎用性を高めたものである。ここでは、AODO法の解説を行う。 |
● AODO法は以下の手順で構成されている。 1)固定 : アルデヒド・オスミウム二重固定 2)凍結割断: 細胞を凍結して割断し、細胞内部を露出させる 3)浸軟処理: 割断した面から余分な細胞基質を希薄なオスミウム溶液で溶解・除去する 4)導電染色: 試料に導電性・強度を付加する 5)乾燥 : 脱水の後、試料を変形なく乾燥させる 6)金属蒸着: 試料に導電性を与え、二次電子収量を増加させる このうち、固定・導電染色・乾燥・金属蒸着の4項目は走査電顕の生物試料作製で基本的で一般的な技術である。AODO法では(2)凍結割断とその直後に行う(3)浸軟処理が特徴的な技術となる。 |
【2】AODO法の準備 【目次に戻る】
AODO法に必要な物品と使用液の調整法をそれぞれ表1〜2に示した。試料作製の再現性を高めるため、使用液の濃度を常に一定にしておくことが重要である。 |
表1 準備するもの
蒸留水・生理的食塩水・0.67M(M/15)リン酸緩衝液・パラフォルムアルデヒド・ 25%グルタルアルデヒド溶液・2%オスミウム溶液(保存液)・タンニン酸・ 50%Dimetylsulfoxide水溶液・液体窒素・凍結割断器・動物灌流用具一式・動物用麻酔薬
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表2 使用液の調整法
1) アルデヒド灌流固定液: 25% glutaraldehyde 8 ml 4% formaldehyde 50 ml M/15 phosphate buffer solution 342 ml (formaldehydeは、paraformaldehydeから調製) (最終濃度は、GA:0.5%、FA:0.5% です) 2) 1%オスミウム液(後固定及び導電染色用): 2% オスミウム保存液 2 ml M/15 phosphate buffer solution 2 ml (最終濃度は、1% です) 3) 0.1%オスミウム浸軟液: 2% オスミウム保存液 1 ml M/15 phosphate buffer solution 19 ml (最終濃度は、0.1% です)
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【3】AODO法の手技 【目次に戻る】
1 固定1)麻酔下で生理的食塩水(0.1%になるようにクエン酸ナトリウムを追加しておくと血液凝固を 防止できる)を灌流して脱血し、続いてアルデヒド灌流固定液(表2)を灌流する。 なお、カニュレーションは左心室や大動脈など目的に適した血管を選ぶ。 2)灌流後、動物から目的臓器を切り出し、1x1x3 mm 程度に細切する。これはオスミウム固定液 が1時間で組織に十分に浸透し得る大きさを意味している。 場合によっては、細切の後アルデヒド灌流固定液で10〜60分くらい浸漬固定を追加する。 3)M/15 phosphate buffer solution(以下、緩衝液)で十分に水洗する。 4)1%オスミウム液で後固定する(60〜90分)。 5)緩衝液または蒸留水で十分に水洗する(10分を6回以上)。 2 DMSO 凍結割断1)試料を50%DMSOに30分を2回以上、漬ける。 2)凍結割断器に液体窒素を入れて冷却しておく。 3)試料を凍結割断器の金属板に載せて凍結させる。 4)液体窒素で冷却したナイフを試料に軽く当てて試料を割断する。 5)割断された試料は50%DMSO溶液に戻して融解する。 6)緩衝液または蒸留水で十分に水洗する(10分を6回以上)。 3 浸軟処理1)割断後の試料を1%オスミウム液で10〜20分程度再固定する。 2)緩衝液または蒸留水でかるく水洗する(10分を2回程度)。 3)試料を20℃の浸軟溶液(0.1%オスミウム浸軟液)に入れる(72時間前後)。 時間については、次章を参考のこと。 液量は充分すぎる位に用意する(例:割断試料10ヶに対して20ml程度)。 また、濃度は低くてもオスミウムガスが出るので、パラフィルムなどで密封する。 溶液が黒く濁ってきたら(2日目、3日目)、新しい溶液(0.1%オスミウム浸軟液)に替える。 4)緩衝液または蒸留水で十分に水洗する(10分を6回以上)。 4 導電染色1)1%タンニン酸水溶液に1〜2時間漬ける。 2)緩衝液または蒸留水で十分に水洗する(10分を6回以上)。 3)1%オスミウム液(緩衝液使用)に1時間漬ける。 4)緩衝液または蒸留水で十分に水洗する(10分を6回以上)。 5 脱水と乾燥(凍結乾燥法の場合)1)上昇エタノール系で脱水する(50,70,80,90,100%:15〜30分づつ)。 2)t−ブチルアルコールに漬ける(15分を4回以上)。 3)試料瓶に蓋をして、冷蔵庫または冷凍庫で凍結させる。 4)専用凍結乾燥器に入れて乾燥させる。 5’脱水と乾燥(臨界点乾燥の場合)1)上昇エタノール系で脱水する(50,70,80,90,100,100,100%:15〜30分づつ)。 2)酢酸イソアミルに漬ける(15分を2回以上)。 3)乾燥用試料カゴに試料を入れて、臨界点乾燥装置に入れる。 乾燥装置に持ち込む試料の数を20ヶ以内にすると、失敗は少なくなる。 4)液状炭酸を注入し、何度か交換する。 5)温度設定を40℃にし、ガスをリークさせて乾燥させる。 6 金属コーティング1)試料の割断面を上に向けて、銀ペーストなどを用いて試料台に付ける。 2)恒温器などで十分に銀ペーストを乾燥させる(重要)。 3)金属コーティング装置で薄く白金などをコーティングする。 一般的には、イオンスパッタコーティングが良い。 導電染色を行っているので、数nm厚のコーティングで良い。
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【4】コツと理解 【目次に戻る】
1. 初期固定と浸軟時間は深い関係:AODO法の特徴は「一度固定しておいた細胞質の一部を、割断面から浸軟という技術で取り除く」ことにある。したがって、始めの固定 2. 試料の大きさを考える:細切するときに注意するのが大きさである。後固定のオスミウムが充分に浸透する大きさ(太さ)にする必要がある。通常、オスミウムは 3. 凍結割断について:試料を何に包埋して割断するかは重要なポイントである。エタノールや酢酸イソアミルなどの有機溶剤でも凍結割断は可能であるが、固定 4. 浸軟処理の成果:割断面から観察の邪魔になる余分な細胞質を除去する浸軟処理が適切に行われると美しい立体的な観察視野が得られる。しかし、浸軟処理 5. 始めての試料はテストが重要:20℃で3〜4日間と上述したが、初めて浸軟を行う試料では一度「浸軟時間テスト」を行っておく。浸軟処理瓶から、2日半(60時間)・ 6. 組織化学も併用できる:0.5% GA + 0.5% FA の灌流固定でも失活しない酵素で、しかも重金属による検出法が存在している場合には組織化学法の併用が可能で 7. オリジナルODO法の使用:どうしても灌流できない試料の時にはODO法原法を用いる。細切した未固定試料を直接1%オスミウム固定液に浸漬し(1〜2時間)、以下
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【5】その他 【目次に戻る】
1. 水洗について:オスミウム後固定までは必ず緩衝液を用いる。弱い固定液で短時間の固定操作であるので、膜の半透性や酵素活性などは損なわれていな 2. 導電染色は必ず行う:試料に オスミウムを大量に付着させることによって導電性を与え、観察中に試料におこるチャージアップを防止するのが第一目的である 3. 良い乾燥法でも失敗する:試料に変形を与えずに乾燥する方法は「臨界点乾燥法」と「t-ブチルアルコール凍結乾燥法(文献7)」の2法が知られている。他にも方法 4. 金属コーティングについて:金属コーティングには「蒸着」と「スパッタリング」という2法が知られている。AODO法で作製した試料には、粒状性の良いこと、コー 5. 高倍率観察ではデコレーションに注意:高倍率(10万倍以上)で観察する場合には、試料へのデコレーションというアーチファクトを考慮に入れる。最大のデコレーションは、導 6. 観察できるもの:ほとんどの細胞内の膜系構造物は観察可能である。細胞膜、核膜、小胞体、ゴルジ装置、ミトコンドリアの膜部分、ライソゾームなど、は
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文献 【目次に戻る】
1) TANAKA, K. & NAGURO, T.: High resolution scanning electron microscopyof cell organelles by a new specimen preparation method.
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